<犬の床ずれ>
犬の床ずれは、犬が長期間にわたって同じ姿勢で寝たきりなどになった場合に起こります。
特に腰や肩、人間でいうところの「前脚の手首」にあたる部分や「後ろ脚の踵」など、圧力がかかりやすいところは床ずれになりやすい部分です。
床ずれは内部組織のダメージが発生初期には表面から目では確認できないために、患部の状態がかなり悪化した状態で発見されることが多いです。 床ずれのでき始めの状態である「皮膚表面の発赤」を見落とさないことが早期発見のために極めて重要です。発赤の段階で気が付けば、適切なケアを行うことで床ずれの悪化を防ぐことが可能なのです。寝姿勢を続けることの多い犬の介護に際しては注意深く皮膚の状態を観察することが大切です。床ずれは高齢犬に特有の疾患ではなく、体重の重い大型犬の場合には若年の場合にもしばしば見られます。犬の体(主として骨の隆起部)と寝床の支持面との接触局所で血行循環が不全とな って壊死が起こり、組織の欠損・皮膚潰瘍に至る疾患です。
一般に犬の床ずれは組織の欠損段階に至ると慢性的に経過して治り難いので、予防策を講じることが重要なのです。

床ずれ発生の要因 = 圧力 × 時間
*「圧力」とは組織に垂直に作用する体圧と、組織と支持面の間の摩擦状態をいいます。
*「時間」とは同じ姿勢を長時間続けることをいいます。

「圧力」を分散すること、同じ姿勢を続ける「時間」を短くすることは床ずれの有効な予防法です。
ムートン(羊毛皮)やウレタンフォーム、エアマットなど体圧を分散できる寝床を用意し、局部の減圧を行うことが予防に役立ちます。床ずれ予防のためにも、ベッドの素材は柔らかいものにするのがベストです。
最近では床ずれ予防効果のある犬用介護ベッドが市販されていますが、人間用の低反発マットなどで代用することも可能です。
定期的に体位変換を行う(身体の下になる面を入れ替える)ことでも床ずれの発生を予防できます。 床ずれ発生の内的因子としては、加齢・貧血の他低栄養状態などが考えられますので、その部分の改善も図るべきです。

床ずれの治療
床ずれができてしまった場合は患部の治療を行なうと同時に、それ以上の進行を止めるため除圧の工夫や栄養状態の改善を並行して行います。 除圧や全身状態の改善に注意が払われないと、床ずれの回復は遅れ、場合によっては悪化に繋がってしまいます。
床ずれの症状は、患部が痂皮や滲出液、壊死物で被われる炎症の強い時期と、肉芽の上皮が形成される再生の盛んな時期に分けることが出来ます。床ずれ治療の基本は「洗浄」であるといわれています。
できるだけ多い量の流水(ぬるま湯)で患部を洗浄し、膿・滲出液・細菌を洗い流すことが重要です。
ポケット(皮下に広がった腔)を形成した床ずれではポケットの中を十分に洗浄しますが、その際は水の力で洗い流すことが重要で、ガーゼなどでこすってはいけません。特に健康な肉芽が形成され、上皮が再生されつつある段階で力を加えると出血や剥離が起こり、治癒を遅らせる結果になってしまいます。

消毒薬は獣医師の指示により使用しますが、患部を消毒することによって症状が改善すると思い込まない方が良いでしょう。 化膿していない患部は、洗浄が十分に行なわれればむしろ消毒の必要はなく、肉芽の形成・上皮の再生が見られる段階では消毒薬の多用は避けるべきです。
一般に消毒薬は規定の濃度で使用しないと効果を発揮しないため、洗浄液に消毒薬を混ぜても消毒効果は低いです。患部は滲出液の多い炎症期には湿潤状態を避ける介護を行うべきですが、治癒過程では乾燥状態は望ましいものではありません。患部は治癒を円滑に進行させるために、適切な湿潤状態を保つことが必要です。

床ずれの治療に際しては、患部の深さや症状によって獣医師による外科的な切開、汚染物質・壊死組織の切除が必要です。ハサミやメスによって痂皮を切開・切除することを外科的デブリードメントと呼びます。

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ウレタンを使った床ずれ予防マット
(四隅の持ち手を使って寝返りの補助や室内の移動に利用できます)